デンマークの伝説となった建築家
建築に造詣が深くない人でも、その名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。
へニング・ラーセンはその功績をたたえられ、惜しまれつつも3年前に他界した伝説の建築家なのです。
ラーセン最大の特徴と言えば、光と空間が作り上げる広々とした空間で、光の効果を最大限に利用した造形美です。
デンマーク人は身長2メートルを超える長身が多く、縦に広がりのある空間が生まれました。
日本の小さく狭い中に奥行を生み出す造形美とは真逆にあると言っても過言ではありません。
また、北欧は日照時間が短いため、夏はこぞって日光浴をし、一年分のビタミンDを貯め込みます。
太陽光への憧憬
太陽光への強い憧憬がラーセンの建築全てに表れており、光の巨匠の異名を取る程です。
ラーセンはデンマーク王立美術アカデミーで建築を学び、その後ロンドンで学び、アメリカはマサチューセッツ工科大学で都市設計について学びました。
ラーセンの最初の大仕事がサウジアラビアの首都リヤドにある外務省ビルでした。
サウジアラビアと言えば砂漠の国で、太陽光は国民がうんざりする程強く照り付けます。
その様な国の外務省ビルのデザインを北欧の建築家が手掛けることになったいきさつは判りませんが、結果として砂漠の砂丘を思わせる外観で、直射日光や輻射熱を遮りつつも光が室内に取り込まれる構造になっています。
ラーセンの代表的な建築物
ラーセンを語る上で避けて通れないのが、コペンハーゲンにある新カールスバーグ彫刻美術館でしょう。
まるで教会を思わせる構造で、光が降り注ぎ荘厳な雰囲気を醸し出す空間は、光を求めるデンマーク人の心を捕らえました。
ラーセンのデザインは、日照不足に悩む北欧でこそ生きるのです。
北欧では若者の自殺率が高く、一説では日照不足により鬱状態に陥りやすいと言われています。
そのため、意識は内に内に向けられ、家具やパッチワークなどのインテリアが洗練されていき、世界的にも高く評価される様になりました。
デンマークなどの北欧諸国にとって、室内での光や広がりなどの居心地の良さは、まさしく死活問題と言えるのかもしれません。
晩年に手がけた巨大建造物
2004年にコペンハーゲンのIT大学の建築を手がけましたが、建物の壁から部屋が飛び出しているかの様な不思議な空間となっています。
光は突き出た部屋を突き抜けるため、壁でさえぎられることなく、建物内部全体をくまなく光に包まれています。
光の巨匠ならではのデザインが注目されました。
最後の大きな仕事が2005年、コペンハーゲンのオペラハウスです。
建物内は球体を思わせる曲線と、空間を縦横無尽に走る通路と階段に目を見張ります。
広い空間を更に広く見せる内部構造で、まるで宇宙船の内部にいる様な錯覚に陥る斬新なものです。